労働者が通勤や帰宅途中に怪我をした場合は、通勤災害として労災保険が適用され、自己負担なしに病院等で治療を受けることができます。
そして4日以上休業された場合は同じく労災保険から休業給付が受けられ、万一お亡くなりになった場合は遺族給付が受けられることになっています。
ちなみにここでいう「通勤・帰宅」は、住居と職場の往復のことを指します。
それでは、会社の近くに引越した労働者が、元々住んでいた実家からもしばらく通う可能性がある場合、新しい家と実家の双方を住居として扱い、いずれからの通勤・帰宅の場合であっても通勤災害として扱うことができるのでしょうか。
今回はこの点について取り上げてみたいと思います。
労災保険法では、通勤について下記のように定義しています。
【労災保険法第7条第2項(一部筆者修正)】
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
(以下、省略)
つまり、住居と会社の間の通常の移動を通勤と定義しています。
そして、通勤(帰宅を含む)途中の怪我等を通勤災害と定義し、労災保険から治療費等を支給することになっているのです。
次のような質問を受けることがよくあります。
「会社には、電車とバスで通勤する旨届け出ており、通勤定期券代をもらっています。
この度、自宅から会社まで原付での通勤途中、一人で転倒し負傷しました。この場合、通勤災害になりますか?」
この場合、原付での通勤経路が遠回りなどではなく合理的な経路であれば、通勤災害と認定されます。
ただし、会社から定期券代をもらっているにもかかわらず異なる手段で通勤しているため、会社との間で通勤手当を見直しする必要が出てくると思われます。
それでは前述のように、現在居住している家と実家の2か所があり、日によって住居を使い分けている場合、いずれからの通勤であっても通勤災害として認められるのでしょうか。
これについては通達があり、いずれの通勤経路も合理的な経路と解されています。
住居については、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、かつ、就業の拠点になっているか否かで判断します。
例えば、通常は家族のいるところから出勤するものの、別にアパート等を借りていて、早出や長時間残業をしたときはアパートに泊まって通勤するような場合には、家族の住居とアパートの双方が住居になるとされています。
つまり、きちんとした理由があれば、いずれの家からの通勤であっても通勤災害と認められることになるのです。
また同じ理屈により、例えば家族が病院に入院しており、日によって病院から直接通勤するような場合も、合理的な経路・方法と認められ、通勤災害の認定は受けられるものと思われます。
通勤経路が合理的な経路及び方法であるか否かは、比較的緩やかに解釈されるようです。