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山を越える鯖の道

「すべての道は京に通ず」とまでは言われていませんが、古来、都である京都には全国各地からの街道が通じていました。

有名どころで言えば江戸へ向かう「東海道」、京都の手前・大津市追分で分かれて大阪へ向かう「京街道」、大阪へ寄らずに神戸、そしてはるか九州は大宰府へと急ぐ「西国街道(山陽道)」、丹波へ向かう「山陰道」、近隣を結ぶ「奈良街道」に「伊勢街道」。

その中に一つ、魚の名前がついた妙な街道があります。
それが「鯖(さば)街道」です。

■鯖街道とは?

代表的な道のりは、京都の出町柳を起点とし、大原、途中越、花折峠、朽木谷、熊川、遠敷を経て小浜へと至る80kmほど、山越えばかりの道のりで「若狭街道」とも呼ばれます。

文字通り、小浜で揚がった鯖を運んだ道なのですが、青魚のサバは足が早くそのままではすぐ腐ってしまう事から、行商人たちは大量の塩を振り、天秤棒で担いで険しい山々を一昼夜で駆け抜けたそうです。

そして、京都に着くころにはいい塩梅になった鯖の身をそのまま使った棒状の寿司が、今も京都のハレの日の食卓を彩る料理のひとつ「鯖寿司」です。
鯖寿司発祥の地が、産地の若狭ではなくて京都なのは、この街道とその距離に由来しているというわけです。
(ひとくちに鯖街道と言っても、厳密には高浜を目指した西回りや、最短距離を極めた針畑越など、いくつかのルートがあります。)

■鯖街道を旅する

最近、久々にこの道を自転車で巡りました。

現代の鯖街道は片側2車線の国道として整備され、快適なドライブ(サイクリング)が楽しめます。

京都市中心部からは国道367号へ入り、まずは大原へ。
~京都大原三千院、恋に疲れた女がひとり~
今は外国人観光客が大挙として押し寄せ、傷心旅行にはふさわしくありません。
そこで、少し先にある「大黒山北寺」を訪ねてみましょう。
素晴らしい雰囲気を醸していますが、だいたい誰もいません。

県境の途中越(峠)を超えると滋賀県へ。
「途中(とちゅう)」は大津市に本当にある地名で、少し前までは堅田駅から途中行きのバスがあり「次は終点、途中です」という冗談のようなアナウンスが聞けると話題になったことがあります。いや、マニアックすぎてそんなわけないか。

途中を出ると直ぐに最大の難所「花折(はなおれ)峠」へ差し掛かります。
京都に大地震が来るとすれば、この花折断層が動く時だと言われているので、「はなおれ」の名は(市民には)意外に知られています。
ヘアピンカーブの道を標高500mまで登り詰めるとトンネルを経て朽木(くつき)谷へ出ます。

朽木谷は琵琶湖に注ぐ安曇川(あどがわ)が刻んだ明るく開けた谷で、京都にほど近いキャンプ地、比良山系の登山口、鮎釣りのメッカとしてアウトドア趣味の聖地となっています。
そして、道端には鯖寿司を売る小屋が点在しています(名は体を表すスタイル)。
中でも、栃生梅竹さんが私のイチ押しです。
大ぶりのサバが生のような食感でご飯と融けあい、鯖寿司はここまでできるのか?と唸らされます。

旧朽木村を過ぎると国道303号にぶつかり、進路は西に変わります。
いくつかのトンネルを越えると熊川宿、鯖街道随一の宿場町です。
ここは重伝建として指定された往年の街並みがきれいに残されており、こんにゃくの天ぷらがおいしい。食べてばっかやな。

若狭湾沿いに出て、どんどん西へ。
実は、この区間は国道と並走する狭い旧道に街道の風情が残っており、これはサイクリングの特権ですね。
昔の人が生きるために必死に越えた峠道も、クルマなら半日足らず、自転車でも一日あれば到達できる「小さな旅」です。

■小浜と京都

古来、若狭地方は御食国(みけつくに)と言われ、朝廷に食料を献上していた土地です。
京都とは険しい山々に隔てられてこそいましたが、海産物の運搬に伴い交流が盛んで、言葉や文化が入り混じっていました。

今でこそ若狭地方は福井県ですが、滋賀県とされていた時期もありました。
小浜市街では毎年祇園祭に似た祭礼が実施され、塗り箸(全国シェア1位!)に代表される工芸品が地場産業として根付き、方言も関西弁に近いイントネーションで、これは県都・福井を擁する嶺北・越前地方とは全く異なります。

そんな古き佳き縁で結ばれた小浜と京都を近づけよう!
という国家的プロジェクトが、北陸新幹線「小浜・京都ルート」です。
ただ、残念なことに京都市街の地下を通るルート案が公表されるやいなや、人々の懸念が渦巻き、5兆円を超える高額な建設予算も相まって膠着状態に置かれています。

もしこれが開通すると、京都と小浜の間は僅か20分で結ばれ、サバはなんと刺身のまま持ってこられるようになりますね。
天秤棒を担いで峠道を汗して通った行商人がもし生きていたら、さぞかしたまげるでしょうねぇ。

新幹線が夢幻で終わるのか、それはまだ誰にも分かりません。
とは言え、交通の発達でどんなに若狭が近くなったとしても、鯖寿司の味と、そのルーツが厳しい山越えの道にあったことが変わることはないでしょう。