四条通は実験道路

4月になりました。
この京都コラムも5年目、まもなく30回を数えます。今年は少し趣向を変えて、2月が二条城、4月は四条通と、数字にちなんだ題材で進めて行こうと考えております。

さて、京都の四条通は、言わずと知れた洛中のメインストリートです。

祇園・八坂神社の石段下から松尾大社の鳥居まで続くおよそ8km続く市道で、西大路通から河原町通にかけての地下には、大阪から伸びる阪急電車が走っています。

阪急の終点・河原町駅界隈には、修学旅行生の集まる新京極、独特な佇まいをもつ先斗町、高瀬川や鴨川など特徴的な街並みが広がります。
7月には祇園祭の舞台として、山鉾巡行も行われます。

付近の路線価は、長く京都府下トップで、名実ともに京都一の繁華街です。

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□歩道拡幅でひと騒動

そんな四条通で、「歩道拡幅」という、大きな動きがありました。

京都市の街路は、1200年前に建立された平安京の設計を下敷きにしています。
行き違いが困難な狭い道路が碁盤目状に走り、交差点も多く、自動車交通が大変不便です。

車のことなど殆ど考慮されていない街に大量の車が流れ込めば、パンクするのは当然で、特に行楽シーズンの夕方は、四条通りをはじめとする市内中心や、名所の集まる東山区では全く身動きが取れなくなるほどです。

そこで、市は2003年から「歩くまち京都」の理念を提唱し、自動車交通の抑制と公共交通の利用を呼びかけてきました。

市バス、地下鉄の増発や、郊外の駐車場で地下鉄に乗り換えてもらうパーク&ライドの実施、旅行業者や出版社なども巻き込んだ盛んな広報活動なども行い、中心部への自動車の流入を抑える施策を進めてきました。

その本丸ともいえる「四条通歩道拡幅」が、10年の構想を経て、2015年に実行に移されました。

具体的には、中心市街地である四条通の川端通~烏丸通間の1km長の区間で、4車線ある車道を2車線に半減させ、浮いたスペースを全て歩道に充てるという、全国でも類を見ない大胆なもの。

いや、これ本当に驚きで、心斎橋界隈で言えば御堂筋の車道潰す、みたいな話…
東京なら、新宿?銀座?中央通り?
ちょっとスケールが違うので無理がありますが、一都市に与えるインパクト、という意味では、そのくらいの話でして。

ただ、こうした策が出てくる背景には、合理的な面もありました。

というのも、同区間において、道路全体に占める面積比では車道2:歩道1の配分にもかかわらず、実際の輸送密度を見ると、道路2,200人に対し歩道7,000人という有様で、輸送に対する貢献度の観点では、車道1:歩道3以上という結果だったのです。

実際のところ、4車線中、歩道側の2車線は路上駐車や客待ちタクシーで溢れ常時ふさがっている状況でしたので、狭い歩道を歩く人間からすると、腑に落ちない思いもありました。

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□実際にやってみたら、大混乱、大不評…

さて、実際に工事に入り、車道の封鎖が始まりますと、歩道は広がり、格段に歩きやすくなりました。

以前は、狭い歩道に道幅一杯に人がひしめき合い、前へ進もうにも追い越すこともできず、じりじりと進むだけ、急いでいるときは四条通から一筋ずらして歩いたものでしたが、そんな心配は要らなくなりました。

バス停付近でも、滞留する人と流れる人の区分けができて、快適に歩けるようになりました。

しかし、割を食った車道側の大渋滞は、すさまじいものがありました。

バスやタクシーで四条通方面に行こうと思うと、歩道拡幅工区の随分手前から一向に進まないのです。わずか数百mに満たないバス停1区間に1時間近くかかるような状況で、運転手に歩くように促される始末でした。

周辺の事業者はもっと深刻で、四条通を避ける車が細い街路にも溢れ、付近の道路交通は完全に麻痺。商品の搬出入や配達、タクシーなどの営業車両は機能不全状態となりました。

このことを市は予測しておらず(実際、歩道拡幅の影響はほとんどない、と事前アナウンスをしていました)、対応は後手に回りました。

その後、市内のあちこちに四条通の迂回を呼び掛ける標識を立てたり、市長がカーナビ業者に四条通を通過するルートを表示させないようプログラム修正を呼び掛けたり、一部のバス路線を南北の別の通りに迂回させたり、といった手を打ちましたが、いずれも渋滞そのものに直接作用するものではなく、市民も観光客も、しばらくの間はこの混乱を甘受する以外にありませんでした。

結果的に、歩道拡幅そのものの評判はすこぶる悪く、「元に戻す」「このまま活かす」など、次の市長選の争点にもなったほどです。

その後、現在に至るまでに渋滞は幾分かマシになった感触はありますが、根本解決はしていません。
四条通渋滞の悪名が轟いたことで、意図的に通行を避けたり、目的地を変えたり、電車に振り変えたり、といった効果はあったのではないかと思いますし、むしろ、本来の狙いは「一度皆で痛い目に遭って、車利用をためらわせる状況を作り出すこと」にあったのかと邪推してしまう程。

結局、同じように歩道拡幅の構想があった祇園から清水道にかけての東大路通は、計画自体棚上げになってしまいました。

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□交通対策は、京都の永遠の課題

今回の歩道拡幅にあたっては、そもそも車自体の総量規制を行わないで、道路容量だけを絞ったために大渋滞が起きたのだという向きがあります。

しかし、実は、流入自動車の総量規制自体は、2007年に実施した社会実験で、既に検証されています。

この時は、トランジットモールの導入可能性を問うという事で、今回の歩道拡幅区間に加え、周辺部でもマイカーの通行一切を遮断する方式で実施し、2009年に本格導入を目指すこととなっていました。

この時の渋滞は、それほどひどいものではなかったと記憶しており、市はこれを「影響なし」の根拠としていたかもしれませんが、車両の流入規制自体は一旦頓挫しています。

それだけ、車と歩行者(公共交通)の利害対立は激しく、調整が難しく、悩ましい問題なのでしょう。

ロンドンやストックホルムなどでは、中心市街地へ流入する自動車へ税を課したり、ゾーンを区切って乗り入れを禁止したりと、先鋭的な施策が導入されているのですが、こういう合意形成って、一体どのようにやったのでしょうか。

特に、日本だとトランジットモール(自家用車締出し)にしても、LRT(現代版路面電車)にしても、結果や見えるものだけが取り上げられますが、こういう意思決定を行うプロセスの話って、なぜか軽んじられるんですよね。

ここへきて、にわかに脚光を浴び始めているのが、地下道です。

実は、四条通の地下は、阪急烏丸駅から河原町駅まで、一駅分歩けるように地下道が整備されています。

現在は、狭く、店舗もないため、歩く人はまばらですが、これを活用しようという動きも出てきた様子。

というか、今更…という気もしないでもないですが、ここに小さな商店やアートプロジェクトなどを展開し、人の流れを呼び込んで盛り上げようという話。

うーん…ならば端から歩道拡幅せずに、最初から地下道の活性化を図っていればよかったのでは?とも、思えなくもないですが。

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とにかく、これ一発で万事解決、という妙手はない、というのが交通政策。

利用する交通機関の種別や、住民か、事業者か、観光客かといった属性により、利害は対立します。

それらすべてを満足させる方略など、存在しません。

だからこそ、今後も紆余曲折しながら、時代や街の姿とともに変わり続けていくでしょう。

そういう意味で、四条通はいま、日本有数の「実験道路」となっていると言っても過言ではないでしょうし、こうした現代的な課題に対応する姿、それによって生まれる軋轢や摩擦、適応の過程なども、一つの観光資源というか、ケーススタディとして生かしていただけれれば、我々市民の苦悩も、意義深いものになるのではないかと思います…。

“四条通は実験道路” への2件のフィードバック

  1. 匿名さん より:

    観光客にとっては良かったかも知れませんが、地方の中小都市ならいざ知らず、100万都市のメインストリートを4→2車線にしてしまうのは正気の沙汰ではないです。

    なぜなら京都はテーマパークではなく、そこで実際に商業活動も活発に行われているので、荷物の積み下ろし等による停車等やむおえない事情があるからです。車線減らすとそういった商業活動に支障が出る。

    地元民目線ではこの様に考えますが、それからいくと残念ながら今の行政側は観光客重視・市民軽視の姿勢の様ですね

    まぁ私も京都は離れて随分たつので、現在どうなっているかは分かりませんが…

    • katou より:

      観光客重視・市民軽視。
      当局の方は「そんなことはない」と、きっと言われると思いますが、そう思ってしまうほどに、今の京都は観光業の勢いが目立ちますよね。
      地価の上昇、民泊の乱立、ホテル建設ラッシュ。家を買いたくても、中心部はマンション含め、もはやサラリーマン世帯が手出しできる水準ではなく、交通の不便な郊外に出ざるを得ず、そうすると自動車に乗ることになり…悪循環です。
      京都の町は誰のもの?と言い始めれば、それはきっと地主や資本家のもの、という身も蓋もない話になってしまうのでしょう。
      最早、行政もコントロール不能なのではないかと思います。
      ある意味では、期待していないというか、諦観というか。それもまた京都人らしい振る舞いというか。

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